主任は私を逃がさない

 呆気に取られる私のすぐ隣で、史郎くんが仁王立ちしながら私をジッと見おろしている。

「……なにをやっているんだ……お前は」

 不自然なほどスローテンポな口調から伝わってくる感情は、明らかな怒り。

 声だけじゃなく彼の全身から、露骨に剣呑なオーラがドッと押し寄せてくる。

 ドライアイスのように吹きつけてくるその濃厚な波動に、私は窒息しそうになってしまった。


 史郎くん、怒ってる。顔は完璧な無表情だけど明らかに怒ってる。

 ヘタに顔立ちが綺麗に整っている分、鉄壁の無表情が半端じゃないほどド迫力だ。


「花岡……」


『ジロリ』と音が聞こえないのが不思議なほど凄みのある目付きで、史郎くんは花岡さんを睨みつけた。

 刺し貫かれそうなその威力に、本気でビビッた花岡さんが裏返った声を出す。


「は、はい?」

「アースマネジメントの川崎課長が探していたぞ。お前、あそこの担当だろう?」

「そ、そうです」

「顧客に気をつかわせるんじゃない。早く二次会に同行しろ」

「はい。すみませんでした」


 慌てて頭を下げた花岡さんが、「じゃ、中山さんも一緒に……」と言いながら私の方へ手を伸ばす。

 すかさず史郎くんが『ビシュッ!』っと鋭い視線を花岡さんに放った。

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