主任は私を逃がさない

 その威力たるや、目からボウガンの矢が飛び出ているんじゃないかと思うくらい。

 直撃を受けた花岡さんは痛みのせいか恐怖のせいか、顔面がヒクヒク引き攣ってしまっている。


「花岡」

「はい……」

「いいから、さっさと行け」

「はい……」


 蛇に睨まれたカエル……というよりもシャチに襲われたフンボルトペンギンのように、花岡さんは素早く私達の目の前から撤退した。

 後に残された私は、ゴクリとツバを飲み込みながら必死に思考を廻らせる。


 多分、史郎くんは私がお酒を飲もうとした事に対して怒っているのだろう。

 また保護者気取りで、口煩く干渉してくるつもりなんだ。

 私がお酒を飲もうが飲むまいが、それは私の自由意志であるべきなのに。

 こんなのは横暴だ。人権侵害に他ならない。

 要らないお節介はやめて欲しい。私はね、二次会に行くって自分で決め……


「陽菜、来い。帰るぞ」

「あ、はい」


 大股でズカズカ歩き始めた史郎くんの背中を、私は素直に追いかけた。

 とてもじゃないけど今の史郎くんに抵抗する勇気はない。

 二次会を取るか身の安全を取るかと聞かれたら、私は迷わず後者を選びます。


 史郎くんはムッツリ黙り込んだまま、真っ黒な不機嫌オーラを四方八方に発散させて歩いている。

 私は身を小さく屈めて、降りかかってくるオーラをやり過ごしながら後をついて行った。

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