主任は私を逃がさない
一緒に会場を出てエレベーターを降り、ホテルを出ると外はもう完全に夜の気配に包まれていた。
街は宝石箱をひっくり返したような色とりどりの灯りと、大勢の人の賑わいで彩られている。
そのまますぐタクシーに押し込められるのかと思ったけれど、史郎くんは騒々しい表通りから逸れて歩き続けた。
ホテルの横道に入って暗い裏通りを進み始めた彼の背中を見ながら、私は首をかしげる。
どこに行くつもりなんだろう?
表通りは混雑していてタクシーが拾えないから、どこか別の道に抜けるつもりかな?
細い路地はろくに明かりも見えず、人影もなく、左右は大きなビルの壁が続くばかり。
ちょっと怖い雰囲気が漂っているけど、史郎くんに声をかけるのも怒られそうで気が引けるから、とにかく神妙な態度でついて行くしかない。
私は俯きながら彼から一歩離れて、薄暗い道を歩き続けた。
「陽菜」
ずっと沈黙していた史郎くんが突然私の名を呼んで、こっちに振り返った。
と思うや否や、いきなり私の両肩をつかんで壁にドンッと押し付ける。
私は顔を顰めて、「きゃ!?」と小さい悲鳴を上げてしまった。
驚いて顔を上げると、史郎くんが身を屈めるようにして私を覗き込んでいる。