主任は私を逃がさない
暗くて見通しの悪い視界でも、その顔が怒りに染まっているのがはっきり分かった。
「なに考えているんだお前は!」
「な、なにって、なにが?」
「大人になるんじゃなかったのか!? なのにあんな軽はずみな態度をとるなんて!」
「軽はずみって、お酒を飲むのがそんなに悪いの?」
「お前、自分はもう簡単に引っ掛からないって言ってたろうが!」
「私べつに引っ掛かってないわよ。どこにも」
「花岡に釣られて、フラフラついて行こうとしてたじゃないか!」
「釣られたわけじゃない! お仕事のお付き合いに行こうとしていたの!」
ムッとして怒鳴り返す私を、史郎くんはイライラした顔で見ている。
「だから陽菜は子どもだっていうんだよ」
「ちょっと! 私のどこが子どもだって!?」
「花岡は二次会にかこつけて、お前にちょっかい出そうとしたんだよ。あんな見え見えの下心も見抜けないで、なにが“大人の女性”だ」
「それは史郎くんのカン違いよ! 花岡さんは明るくて親切な、いい人だもの!」