主任は私を逃がさない
史郎くんの頬がぴくりと痙攣する。
私の両肩を壁に押さえつけたまま大きく息を吐き、感情を押し殺した声で話し続けた。
「お前は何も分かっていない。今の自分がどんな風に見えるのか」
「なによ? どう見えるって言うの?」
「夜の繁華街をフラついている子どもだよ。無理に背伸びして、もう私、世の中全てを知っているのよスゴイでしょ? って顔してる」
「な……!?」
「檻から飛び出た草食動物みたいに浮かれた目をして、肉食動物相手にエサを振りまいているガキだ。お前は」
私は、言葉も出なかった。
こんな発言、侮辱されているとしか思えない。
信じられない思いで見上げる私に、史郎くんは怒りと冷たさが入り混じったような目をして言った。
「その髪も、化粧も、服も、お前には全く似合っていない。もうやめろ」
「…………!」
ショックで心臓が凍り付くかと思った。
顔を強張らせながら、私は史郎くんに言われた言葉を頭の中で繰り返す。
私には似合わない?
お洒落なヘアスタイルも、綺麗なメイクも、素敵な服も、高いバッグも靴も?
史郎くんは、そんなの私に似合わないって言うの?
私になんて不釣り合いだって言うの?