主任は私を逃がさない

 史郎くんの頬がぴくりと痙攣する。

 私の両肩を壁に押さえつけたまま大きく息を吐き、感情を押し殺した声で話し続けた。


「お前は何も分かっていない。今の自分がどんな風に見えるのか」

「なによ? どう見えるって言うの?」

「夜の繁華街をフラついている子どもだよ。無理に背伸びして、もう私、世の中全てを知っているのよスゴイでしょ? って顔してる」

「な……!?」

「檻から飛び出た草食動物みたいに浮かれた目をして、肉食動物相手にエサを振りまいているガキだ。お前は」


 私は、言葉も出なかった。

 こんな発言、侮辱されているとしか思えない。

 信じられない思いで見上げる私に、史郎くんは怒りと冷たさが入り混じったような目をして言った。


「その髪も、化粧も、服も、お前には全く似合っていない。もうやめろ」

「…………!」


 ショックで心臓が凍り付くかと思った。

 顔を強張らせながら、私は史郎くんに言われた言葉を頭の中で繰り返す。

 私には似合わない?

 お洒落なヘアスタイルも、綺麗なメイクも、素敵な服も、高いバッグも靴も?

 史郎くんは、そんなの私に似合わないって言うの?

 私になんて不釣り合いだって言うの?

< 74 / 142 >

この作品をシェア

pagetop