主任は私を逃がさない

「ひどい……」

「お前、最近ずっと仕事でミスしてるだろ? それは無理してる反動なんだよ。自分でも噛み合わないって思っているはずだ。何かが違ってるって」

「…………」

「そんなお前は、お前じゃないんだ」

「私じゃ、ない?」

「そうだ」

「綺麗になって大人になった私は、私じゃないって言うの?」

「そうじゃない。やっぱりお前はまだ何も分かっていない」


 もどかしそうに、史郎くんは首を左右に振った。

 何かを懸命に伝えようとしているみたいだけれど、私は彼に言われた言葉にすごく傷付いてしまって、それどころじゃない。


「陽菜、どうして俺がお前をあの店に連れて行ったか考えてみろ」

「今はそんな話、関係ないでしょ!?」

「あるんだよ。それが分からないからお前は……」

「もう、いい!」


 噛んで含めるような、まるで子どもに言い聞かせるような史郎くんの口調が耐えられない。

 私を押さえ付けている彼の手から逃れようと、力いっぱい身を捩った。

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