主任は私を逃がさない
キスとアスファルト

 薄い敏感な皮膚に感じる柔らかな弾力と温もり。

 それを与えているのが史郎くんの唇だと自覚した途端、頭の中がスパークした。


 私、史郎くんにキスされている。

 あの史郎くんに。子どもの頃から知っている史郎くんに。

 兄のように慕っていた、あの史郎くんにキスされてる。


 全身が巨大な心臓になってしまったみたいに、バクバクと脈打つ。

 身動きできないまま声を上げようとした僅かな唇の隙間を、史郎くんは見逃さなかった。

 彼の舌がするりと口腔に入り込んでくる。

 そのあまりにリアルな体温と湿り気を帯びた感触に、頭がカッと火照って身体が震えた。


 生き物のように絡み付いてくるものが、私の口の中だけでなく心の中まで掻き乱す。

 深いキスはすでに松本さんと経験済みだったけど、あの時とは比べものにならないほど衝撃が大きい。


 ……どこかで、思っていた。

 史郎くんの態度や言葉にドキドキしたり、『ひょっとして?』なんて思っても、しょせん彼は兄なんだって。

 この人は、多分どこまでも私を妹としてしか扱わないだろうって。

 自分で勝手に史郎くんとの間に築いていた“安心”という名の柵を、今、このキスによって取り払われてしまった。

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