主任は私を逃がさない

 激しい鼓動と、湿った音が混じり合う。

 最初は探り合うように触れていたお互いの舌が、やがて熱に飲み込まれるように絡み合った。

 彼の口を通して伝わってくる、仄かなアルコールの香りに酔ってしまいそう。

 目を閉じた暗闇の中で私は、彼自身の匂いと、混じり合う吐息の荒さと、熱い本能に心を揺さぶられていた。


 掻き抱くような彼の両腕が、キスと同調するように私の背中を荒々しく撫でさする。

 その乱暴な逞しさに翻弄されながら、陶然とした。

 史郎くん、こんなに私を求めてくれている。やっぱり私のことを……。

 痺れるような甘い快感が全身を満たす。

 私は彼に心から身をまかせ、深く激しいキスを無心になって味わい続けた。



「…………」


 長くも、短かくも感じたキスの時間の終わり。

 そっと唇を離した私達は、息を切らしながら余韻を味わっていた。

 充足感を失った唇が寂しくて、心の奥からじわじわ蕩けるような甘酸っぱさが堪らなくて、自分を持て余してしまう。

 そんな私の気持ちを汲んだように、彼は抱き寄せて包み込んでくれた。


 男らしい胸に顔をうずめながら、私はずっと目を閉じたままだった。

 だってこんなの恥ずかしすぎる。史郎くんと目を合わせたら、どんな顔して何を言えばいいの?

 もう一生、このまま目を閉じていたい……。

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