主任は私を逃がさない
もう、耐えられない。
信じていたのに。史郎くんのこと、信じていたのに!
「ばかーっ!!」
私は叫びながら、史郎くんの胸を思い切り両腕で突き飛ばしていた。
そして彼が不意打ちを食らってよろけた隙に、身を翻して駆け出した。
「陽菜!? おい待てどうしたんだ!?」
史郎くんの声を無視して走ったけれど、履き慣れないハイヒールが邪魔をする。
カクカクと覚束ない足元の私は、あっという間に史郎くんに追いつかれて手首をつかまれてしまった。
……ハイヒールなんか嫌いだ!
「陽菜! 落ち着け!」
「手を離してよ!」
大縄跳びの回し役のようにブンブン腕を振って払おうとしたけれど、さすがに男の力には敵わない。
腕の付け根が引っこ抜けそうになるほど必死に抵抗しながら、大声で叫んだ。
「好きじゃないくせに!」
「は!? 隙が無い!?」
「私のこと好きでもないくせに、『朝まで一緒に』なんてよくも言えるわね!」
「はあ!? 俺がお前を好きじゃないって!? お前なに言っ……」
「史郎くんって最低! 結局史郎くんも松本さんと一緒よ!」