主任は私を逃がさない
我思う、故に我あり
「はあぁ……」
翌日の朝の心境は、悲惨の極みだった。
自室のガラステーブルの上にズラッと並んだメイク用品一式を眺め、その物々しさに溜め息をついてしまう。
はあ……メイクしなきゃダメだよね。やっぱり。
ゆうべ、路地を抜けて通りに出た後、ちょうど走ってきたタクシーを拾った私はそのまま自宅へ直行した。
家に着いても気分はずっしり沈んだまま。メイクを落とす気にも、友恵に泣きつく気にすらなれない。
部屋着に着替えてベッドに寝転がり、メソメソしてたらラインが届いた。
『陽菜、今どこだ?』
それは史郎くんからのメッセージだった。
SNSの威力ってすごい。ディスプレイの文字を読んでいるだけなのに、どうして直接話しかけられているような気分になってしまうんだろう。
怖気づいた私はスマホを放り出してしまった。
『どこにいる?』
『家にいるのか?』
『おい、返事をしろ』
『……こら。怒るぞ』
『いい加減にしろ陽菜!』
『家に押しかけるぞ!!』
矢継ぎ早にメッセージが届き、コール音も鳴り続ける。
着信音が鳴るたびに気になって気になって、よせばいいのに吸い寄せられるようにスマホに手が伸びてしまう。
そして徐々にヒートアップしていく文面を読んでますますビビり、返事をせずに放置する。
そんな悪循環を繰り返していた。