さよならは言わないで
さよならは言わないで
予兆はあった。
何ヶ月もかけて徐々に積み上がり始めた雑誌の山を処分したのを皮切りに、
次に来たときは、部屋着として置いていた揃いのスウェットを家で洗濯すると言って持って帰った。
出かける時はいつも手を繋いで、寒い季節になるとその手を俺の上着のポケットに入れて温めた。
ふたりで並んで見たドラマは俺にはよくわからなくて途中で寝てしまったけど、目を覚ますと隣ではラストシーンで涙を流していた。
これがいいと言って買って帰ったマイメロの小さなグラスにはいつも大好きな桃のジュースが注がれていた。
名前を呼ぶとくしゃっと笑顔を見せるのが好きだった。
手を握るとぎゅっと握り返してくれるのが好きだった。
キスをすると一生懸命応えようとしてくれるのが好きだった。
全部が好きだった。
たまらなく愛おしかった。
きっと向こうだって同じ気持ちだったはずだ。
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