さよならは言わないで
初めて出会ったのは、地方都市のターミナルデパートに隣接する商店街で、その日はバレンタインを目前に控えた最後の週末で様々な年代の恋人たちで賑わっていた。
そんな商店街の一角で通りすがりに見た人たちのひとりだった。
黒髪のショートボブで背が低くて、思わずすれ違いざまに視線で追いかけ振り返ると、俺と一緒に来ていたやつがその子を捕まえた。
あっという間だった。
その日家に帰ると街で見たその子から連絡が入っていた。
今日俺といたやつがその子と小中同級生なんて漫画みたいな展開。
そしてそいつが俺の視線に気づいていたのかは知らないがその子に俺の連絡先を教えて俺に連絡してみろと言ったそうだった。
とりあえず電話しようよ、そうもちかけた俺にその子は二つ返事で承諾した。
初めて出会ったその日から一週間後には付き合っていた。
私立のヤンキー校と地元じゃ名高い高校を1年で中退し、先輩からの紹介で鳶の仕事を始めた俺と、進学校に通い将来のこともしっかり考えている彼女。
共通点も何もないし、歳も5つ離れている、だけどただ惹かれて付き合って、忙しくて会えなくてもそれでも好きだった。
理由なんてわからないけど、いままで付き合った誰よりも彼女のことを愛していたし、愛されていると思った。
幸せにしたかった。
他の誰でもなくて俺が幸せにしたかった。