優しくて温かい場所(Gently warm place)

∴∴さよなら

大学の卒業式の日
仕事に行く智を送り出して
部屋を片付け
必要なものだけを鞄につめ
後は、全て処分した。

綾華が、手伝ってくれた。

まるで、私なんか最初から
いなかったように
部屋は片付けられた。

テーブルに
お別れの手紙を置いた。
ただ・・・
『さよなら』とだけ。

それを書くのが、
今の私には精一杯だった。

鍵は、ボストにいれ
智からもらった指輪は、
ネックレスに通して
智の家をでた。

綾華と卒業式に出席して
そのまま空港に向かった。

空港には、神崎さんと思う男性と
父と父の秘書が立っていた。

綾華に、新しい携帯を購入して
もらっていたから、
今まで、使っていたのは、
電源を落とし綾華に預けた。

私の大切な、大事な思い出が
詰まった携帯。

壊す・・・なんか・・できない‥‥

綾華が
『私が、預かる』
と、言ってくれた。

空港で
綾華は、父に殴りかかる
勢いだったから
入り口で帰した。

智は、綾華を訪ねるかもしれないから
綾華も暫くは日本を離れて
両親の元に行く。

私は、父の横にたち
「はじめまして、咲桜です。」
と、挨拶をした。
神崎さんは、
「はじめまして、神崎です。」
と、言い

父に
「それでは、出発します。
行きましょう、咲桜さん。」
と、言ったので、私はそれに
従った。

私の小さなプライドで
父に一度も目を向けることも
しなかった。

私の手のひらは、爪が食い込み
血がにじんでいた。



さよなら‥‥‥‥‥智‥‥‥

‥‥‥‥私の愛した人。
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