取り敢えず書いてみた作品(無題)
「ダメ!やめて!貴方が!貴方が死んでしまうの!」
言った時には既に遅くて、彼は綺麗な漆黒の羽と純白の羽を広げていた。
抑えられていた力が、ようやく外に出た。
それは、収まることを知らずに暴れだした。
漆黒の羽は災いを呼び、純白の羽は奇跡を呼び起こす。
同時に、漆黒の羽と純白の羽が重なった時世界は滅びると言い伝えられていた。
でも、それは間違った言い伝えで、正しくは漆黒の羽と純白の羽が合わさった時、世界に大きな災いが起きるであろう、と。
それをまさに、漆黒の羽と純白の羽を持つ彼が二つの羽を出してしまったのだ。
今まではなんとか抑えてきたのに、その全てが今この瞬間に無意味なものとなった。
「やめて!今ならまだ後戻りできる!だから!」
『もう、やめろと?ゴホッゴホッ』
激しく咳き込む彼に涙が流れる。
言葉を出したいのに、喉から声が出ない。
私は、これを知っている。
お願い、やめて、お願いだから。
「貴方が死んでしまうのなら、こんな命必要ない!」
どんなに一生懸命語りかけてもカレが私の言葉に耳を傾けてくれることは無い。
やめて!助けて!兄様、姉様、彼を止めて!
《天狗の同胞たちよ、我の言葉に耳を傾けよ。
彼は高貴なる烏天狗。彼を止めたまえ。》
頭に響いた言葉を口に出すと彼の背中から生えていた漆黒の羽と純白の羽は姿を消した。
それと同時に沢山の烏天狗達が姿を現して、気を失った彼を囲んだ。
「娘、よくやった。褒美だ。」
手に渡されたのは数匹の小さな猫達。
『ごめんなさい、ごめんなさい。
ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。』
兄様やと思う姉様曰く、私は寝る事も食べる事も拒絶してずっと彼への懺悔の言葉を口ずさんでいたそうだ。