起案者へ愛をこめて【ぎじプリ】
彼の秘密
ファンの音がやたらと大きく響く型遅れのノートパソコンを相手に、小一時間ほど書類と格闘。
前任者が作った決定書がどこかに残っていると聞いていたけれど、どこを探してもそのようなファイルが見つからないのが運のつき。
一から作るとなれば、たとえA43枚程度の書類でもそれなりに労力が必要な訳で、今ようやく出来上がって印刷をクリックしたところ。
早く提出しないと、回議の印鑑をもらっている間に締切が過ぎてしまう。
焦りながら出来たてほやほやの決定書をプリンターから取り出し、隅々までチェック。
「ここ、日付が今日になってるが、もう5時過ぎてるから来週月曜日にしておかないと無理だな」
「あ、本当だ!」
「それからこっちも直せ。『興味を持つ』じゃなくて『興味をもつ』だ。公用文ちゃんと使え!」
「はい!」
「あと、回議はどの順で印鑑もらうんだ? ちゃんと鉛筆書きで指定しないと、途中で止まるぞ」
「そうでした……」
こんな調子で、いつも『彼』に間違いを指摘されながら何度も打ち直す。
「できた~っ!! 結局2時間以上かかっちゃったけど、もうこれで主査から突っ返されない決定書になりましたよね?」
『彼』にこっそり聞いてみると、こんな答えが。
「そうだな。すぐにちゃんと直して正確な手順を崩さないところは評価できる。小野はこの仕事、向いてると思うぞ」
「え、そうですか? でも私、いつまで経っても1回で主査からOKが出たことないんです……」
< 1 / 5 >