起案者へ愛をこめて【ぎじプリ】
彼の秘密

 ファンの音がやたらと大きく響く型遅れのノートパソコンを相手に、小一時間ほど書類と格闘。

 前任者が作った決定書がどこかに残っていると聞いていたけれど、どこを探してもそのようなファイルが見つからないのが運のつき。

 一から作るとなれば、たとえA43枚程度の書類でもそれなりに労力が必要な訳で、今ようやく出来上がって印刷をクリックしたところ。

 早く提出しないと、回議の印鑑をもらっている間に締切が過ぎてしまう。

 焦りながら出来たてほやほやの決定書をプリンターから取り出し、隅々までチェック。



「ここ、日付が今日になってるが、もう5時過ぎてるから来週月曜日にしておかないと無理だな」

「あ、本当だ!」

「それからこっちも直せ。『興味を持つ』じゃなくて『興味をもつ』だ。公用文ちゃんと使え!」

「はい!」

「あと、回議はどの順で印鑑もらうんだ? ちゃんと鉛筆書きで指定しないと、途中で止まるぞ」

「そうでした……」



 こんな調子で、いつも『彼』に間違いを指摘されながら何度も打ち直す。


「できた~っ!! 結局2時間以上かかっちゃったけど、もうこれで主査から突っ返されない決定書になりましたよね?」


『彼』にこっそり聞いてみると、こんな答えが。

 
「そうだな。すぐにちゃんと直して正確な手順を崩さないところは評価できる。小野はこの仕事、向いてると思うぞ」

「え、そうですか? でも私、いつまで経っても1回で主査からOKが出たことないんです……」
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