起案者へ愛をこめて【ぎじプリ】
「確かに小野が作る決定書は穴だらけだからな。これで上に回したら、主査の目が節穴ってことになるだろう」
「おっしゃる通り、です」
「だから『私』が小野を鍛えているんだ。わかるか?」
「え?」
『彼』をじっと見つめる。
ダークグレーのシンプルな装いの中に、実は色々隠し持っている『彼』。
私はいつも『彼』に決裁書を託す。
『彼』だけが、私の特別な存在。
「そんなに見られると、さすがに照れるな。いつも小野が『私』を選んでいる理由は何だ?」
「それは……私でもひと目でわかるチェック項目で色々教えてくれるから……」
そう答えた私に、『彼』はさも面白そうな口調でこう告げた。
「そのチェック項目は『小野のためだけに、主査が作った』としたら、どう思う?」
その、思いがけない言葉に一瞬、リアルで会話しそうになってどきんとした。
危ない、危ない。
もう一度、脳内の会話に戻って『彼』に語りかける。
「私のため、だけ? 嘘っ!」
「いや、本当。『私』は普段、主査の机の引き出しにいる。小野が決裁を必要とする書類を書かなきゃならない状況になった時、さりげなく外に出されて、仲間の一番後ろに並ばされているんだが、気づかなかったか?」
「そういえば……いつも奥の方から取り出していたような」
「多分『私』を選んでいたのだろう?」
「もちろんです。だって、チェックリストがついていて、新しくて、私のことを考えてくれているから、一番好きなんだもの」