起案者へ愛をこめて【ぎじプリ】
そう告げると
「まるで愛の告白だな。『決裁板』に向かって言うより、主査に直接言ってみたらどうだ?」
と、返された。
ダークグレーの表面に銀色の大きな文字で「決裁」と印字された『彼』は、他の決裁板より新しく、バインダーにはいつも、提出文書の『チェックリスト』が付いている。
これのお蔭で書類の訂正箇所が激減し、主査から『やり直し!』と突き返されることも少なくなった。
だけど、このチェックリストがついている決裁板が『彼』だけだったというのはちょっと意外。
私が必ず『彼』を選ぶっていうことが、どうして主査にわかったのだろう。
「小野が気にしている以上に、主査もちゃんと見ているということだ」
『彼』は銀色の文字をぴかぴかと反射させながら、私に「早く主査へ提出しなさい」と促す。
そう言えば『彼』は主査に似ている。
普段よく着ているダークグレーのスーツ、銀縁の眼鏡に真面目でクールな外見。
だけど、チェックリスト同様、ものすごく色々なことに気が付くタイプで、実は面倒見がいいっていうところまでそっくり。
私は普段より緊張しながら、主査の席へ向かった。
「お忙しいところ、すみません。決裁なのですが、これでいいですか?」
決裁が通るかどうか、ということよりも、主査の反応が気になってそわそわしていた。
『彼』が言っていたことは事実だろうか?