鉛筆のぼく。
ぼく

と、おねいさん


今日もおねいさんは素敵である。

ツヤツヤに磨かれた爪と、優しく僕を抱きしめる白いなめらかな指。
僕は一人では何もできないけれど、おねいさんが居ればなんでも出来る。僕はおねいさんが大好きだ。

けれど、最近困ったことがある。

おねいさんが僕に服を着せ始めたのだ。
銀色のそれは僕の体を締め付けてきて、とても窮屈だ。それに、一番嫌なのは、それの所為でおねいさんの指がどんどん僕から離れていくことだ。

僕ではなく、僕に着せた服の方を抱きしめるようになったのだ。

何故だろう、と僕は中身のない頭で考えてみる。けれど、答えはわからなかった。

こういう時は、昔からおねいさんの側にいるという、おばさまに聞くしかない。おばさまは色々なことを知っているのだ。

僕の一日の仕事が終わると、僕はおばさまと対面する。おばさまは僕を綺麗に磨いてくれている。

「ねえ、おばさま」

「なあに、僕くん」

「あのね、僕おねいさんに悪いことしちゃったのかな」

「あら、どうしてそう思うのかしら」

「だっておねいさん、最近僕のこと抱きしめてくれないんだもの」

僕がそう言って相談すると、おばさまはあらあらあら、と困ったように繰り返した。

「もしかして僕くん、さとこちゃんに恋しちゃったのかしら」

おばさまはおねいさんのことをさとこちゃんと呼ぶ。

「コイ?なあに、それ」

「うーん、私も良くはわからないのだけど。その人に触られるととてもむず痒くって、でも嬉しくなるんですって」

ふうん、なるほど。
僕は少し考えてみる。

「あら、そろそろ今日はお別れみたい。明日またお話しましょ」

僕がすっかり考え込んでいたうちに、おばさまは僕のことを磨き終わったみたいだ。おねいさんの指が伸びてきて、僕は一人、部屋の中に入れられる。


うーん、と考える。

僕はおねいさんに触られるととてもむず痒いのかな?

あれ、むず痒いってどういうことだろう?

でも、ドキドキはする。

柔らかく抱きしめられるたび、頭の中が沸騰しそうになるんだ。そして全身がふわっとする。くにゃくにゃに曲がってしまいそうな気分になる。

嬉しい、というのはわかる。

僕はおねいさんに抱きしめて貰うたび嬉しくて嬉しくて、まったく何もできない僕だけれど、大好きなおねいさんの役に立てるのはとても嬉しい。

そういえば、僕はおねいさんのことが大好きだけど、それはコイっていうことなんだろうか。

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