鉛筆のぼく。
と、おにーさん
その日、おねいさんは僕を抱きしめてくれなかった。
代わりに荒れていて、節くれだった硬い指が僕を抱きしめた。たまーにこういうことはあって、僕はそうなった日、ひどく憂鬱な気分になるのだった。
そして、この日はおばさまにも会えない。
優しくて包容力のあるおばさまではなくて、荒っぽいおにーちゃんに僕は磨かれるのだ。
僕はおばさまに聞きたいことがあったけれど、ここしばらくおばさまは僕に質問をさせてくれなくて、僕にとってはどうでもいいことをペラペラと喋るのだ。寂しいけれど、丁度いい機会だ。この大雑把なおにーちゃんに、おばさまの言っていたことを聞いてみよう。
そう決意して僕はおにーちゃんと対面した。
おにーちゃんは、僕によ、っと声をかけて雑に僕を磨く。
「おにーちゃん、聞きたいことがあるんだけど」
「なんだい、僕くん」
「おばさまがね、僕がおねいさんにコイをしてるんじゃないかっていうんだ」
「なるほど、それで?」
「僕はそれはそれでいいんじゃないかな、と思うんだけど、おばさまはそれは困ったことだっていうんだよ」
僕がそう言うとおにーちゃんはすこし固まってしまった。
「お前、知らないのか?」
「え?何を?」
「俺たちは、ガタがきて役目が終わったら捨てられる。けれど、お前たちは、毎日磨かれていって短くなっていく。そして跡形もなく消えていくんだよ」
僕はおにーちゃんが何を話しているのかわからなかった。
消えていく?僕が?僕たちが?
「いいか、お前は鉛筆なんだ。俺は鉛筆削り。お前のおばさまも鉛筆削り。鉛筆を削ることが俺たちの役目で、この刃が脆くなってしまえば捨てられる。けれどお前たち鉛筆は、お前のおねいさんみたいな人たちに使われて、使われるために磨かれて、磨かれる度に減っていくんだ。そういう役目なんだよ」
そういう役目?僕は消えていく役目だというの?
僕はおねいさんの元に返されて、部屋に入れられてから、わんわんと泣いてしまった。
消えてしまうということは、僕はいなくなってしまうということ。
つまり、おねいさんの役には立てなくなって、僕がコイをしていて、大好きなおねいさんからも離れてしまうということ。
どくん、と変な風に体が疼いた。
どくん、どくん。
見下ろせば、僕の体はすっかり短くなっていた。
昔の僕はもっと背が高かったはずだ。それがここまで短くなって。
僕の人生は、もう長くはないのだ。
そして、僕のコイも、それと同時に終わってしまうのだ。