鉛筆のぼく。
◯◯
気が付くと、僕は街中にいた。
僕の側には小さな子供達が、大きな声で何かを叫んでいた。
街の人たちは、ほとんど子供達の前を通り過ぎて行って、子供たちも大きい声を出すのを諦めそうになった時だった。
一人の女の人が僕の前で立ち止まり、僕を抱え上げて子供たちに言ったのだ。
「これくださいな」
子供たちは大喜びで女の人からお金を受け取って、僕を綺麗に包んで手渡した。
「可愛いくまさんね。あなたたちが作ったのかしら」
女の人は、僕を撫でながら、子供たちに話しかけた。
子供たちは口々に女の人に答えて、最後に大人の男の人が、女の人の前に来て言った。
「それは、チャリティー活動でここにいる子供たちみんなで作ったものなんです。使ったのも、鉛筆のクズを再利用して作った紙粘土で。そのクマの色も天然でその色なんですよ。素敵でしょう?」
「ええ、素敵ですね」
女の人と、男の人は幸せそうに笑い合っていた。
僕はなぜかとても嬉しかった。
その女の人が、笑顔でいることが。
そしてすこし悔しかった。
男の人の隣で、笑顔でいることが。
なぜだろう、と考えてみても答えは見つからなかった。
けれど、そんな諸々を含めて、女の人と男の人が柔らかく笑っているのをみる僕は、
とても幸せだった。