太陽を追いかけて


もしこの場に翔平がいたなら。


私のことをみんなの前でわざと“くしゃみ野郎”なんて言って、この失敗を心地のいい笑いに変えてくれるんだろうな。


翔平はそんな人だから。


……って、なんでまだ翔平のことを考えてるんだろう。


ここにはもう、翔平はいないのに。


みんなの前でくしゃみをしちゃって、“翔平がいたら……”って翔平のことを思い出しちゃって。


悲しくて泣きそうになった私。


……だけど。


「……名前。名前言いな」


って、すぐ後ろから聞こえてきた微かな声に、私はビクッと肩を揺らした。


出かけていた涙も、一瞬のうちに引っ込んだ。


「……だから、名前」


そしてもう一度聞こえた声。


教室の中はまだ私のくしゃみ事件でざわざわしていたけど、私にははっきりと聞こえた。


何が何だかこんがらがって分からなくなったけど、とりあえず名前を言えばいいんだよね。


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