告死天使
激しい曲には、力強さで。

悲しい曲には、寄り添う優しさで。

彼女は俺たちの演奏に応えた。
――いや、俺たちを引っ張ってくれた。

マイクが拾わない、彼女の取る拍子、息づかい。

スピーカーを通さない肉声とともに、俺はそれらを感じていた。

ボーカルの彼女に合わせる風に、俺は何度か彼女の方を見た。
観客を前に歌う彼女は、練習やリハーサルよりもずっと輝いて見えた。

それを目に焼き付け、俺は精いっぱいにベースの弦を弾いた。
ずっとこうしていられないだろうか…そう考えながら。
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