千里眼ヒーロー
現れた社内のヒーローは窮地を救うべく、倉庫と廊下を繋ぐ扉を開け放ち、そこにもたれ掛かっていた。眼鏡のレンズの奥、その瞳が私に焦点を合わせる。
「お見事。まるで夜な夜なストリートファイトに身を投じているかのような腕前だ――ああ。この場合だと足前、になるのか。小鳥遊さんはどちらだと思う?」
訳のわからない賛辞と拍手と共に。
ヒーローの正体は、社内のピンチに何故か必ず絶妙なタイミングでその場に現れる常守さんだった。彼いわく、自分は見えてないところなどないのだと言う。
常守さんは、何故か社員のピンチの場に颯爽と現れる。非常階段の外に閉め出された人に気付き解錠してあげたり、社のアイドル的存在妃名子ちゃんのストーカーのロッカールーム侵入を阻止したり、他にも多種多様に現れ、解決へと導く。
そのスマートに対処する様はとてもとてもカッコいいのだ。振舞いも、その容姿も常守さんを形作る全てに、私は遠巻きから密かに見蕩れる。
「小鳥遊さん大丈夫?」
いつもそうだ。常守さんは省エネ運転で最大限の功績を残す。今日も今日とて、常守さんは出入口から動かないまま。
大丈夫ですとこくりと頷き、それは良かったと頷かれるだけで、私の震えてた膝はそうじゃなくなった。
勘違いするな私。常守さんはいつも誰かのピンチに偶然鉢合わせてしまう人で、こうしたセクハラ現場にも多数遭遇。そうして今日の私のように他の女子社員も助けてるのだから。
心頭滅却心頭滅却と心で唱えているうちに、常守さんは課長を追っ払ってくれた。あまりよく聞いてなかったけど、一部始終はバッチリ撮られていて上に報告済みだとか、余罪がどうとか言っていて。
勤続年数相当あるだろうに馬鹿だな。助かったから出てくるそれを心で呟きながら、鳩尾を庇って退散する課長の背中に呪いを送った。