千里眼ヒーロー
「間に合って良かった」
「あっ、ありがとうございます。常守さんが来てくれなかったらと思うと……。あっ、私、ファイルを探すので」
後日きちんとお礼をするとして今日はもう帰って下さい、とは言わせてもらえなかった。常守さんは呆れたように溜め息した後、何故か苛つく空気を纏う。
「もしかしてファイルは、常守さんをおびき寄せる道具でしかなく、必要ないものだとしたら? でなくとも、明日あいつは課長ではなくなって、出社もしてこないかもしれないのに?」
彼もここに用があり邪魔されたのが原因なのか、余計なことに巻き込まれたからか。わからないけど、常守さんはずっと出入口から動かず、その口は真一文字だ。あれ……最初の賛辞と拍手は?
まあ、例え不機嫌なご尊顔でも、私としてはその姿に秘密裏に見蕩れていられるのだから少し嬉しい。眉をしかめててもカッコいいなあ。
「それなら尚更です。代理の人が必要かもしれないですし。……そのほうがよっぽど探した甲斐があります」
唐突に機嫌が直ったのか、私の言葉に常守さんがくくくと笑うものだから、その笑顔に立ち眩みそうになる。ヤバい美形ってヤバい。
課長との乱闘で散らかった周囲を直して、常守さんの佇む出入口に向かう。いつも密かに眺めるだけだった常守さんは目測よりも長身で、見上げる私の首がぽきりと鳴った。こんな近くでガン見なんて、きっともうないことだろう。
「常守さんは大変ですね。こんなにいつも誰かのピンチに遭遇してばかりで。あっ、以前もありがとうございました」
常守さんに助けてもらったのは今日だけじゃない。以前、いけると思った段ボール三箱運搬に途中指が悲鳴をあげていたところ、常守さんがいつの間にか台車を手配してくれたらしい。台車と共に現れたのは同僚だったけど。
給湯室の蛇口が暴走して半泣きのときも、水のトラブル業者をいつの間にか呼んでくれたのは常守さんだったらしい。又聞きの情報だけど事実だ。