連れ添い
 ☆☆



 ――時刻は午後七時すぎ。藍色の空に浮かぶ三日月が優しく輝いている。


 経理部の人間は彼女を置いてすでに帰宅してしまった。この部屋にはぼくと彼女のふたりきりだ。


 静かな部屋には時折、空調機の乾いた音が聞こえる。電気スタンドの光が手元を照らしていた。


 
「さあ、うだうだしている暇はないよ? 修正してしまおうか」

 今日という時間は限られている。


 腕まくりをしたぼくは、歯を見せてにやりと笑った。

 すると彼女は頬を染め、にっこりと微笑んだ。への字に曲がっていた唇が弧を描く。

 柔らかな春の日差しのようなその笑みが、ぼくの胸を高鳴らせる。

 彼女のその笑みこそが、ぼくが見たいと思った表情だ。


 彼女はこくんと大きく頷くと、ひたすらキーボードを打ち続ける。


 何も悩む必要はないよ。今日はとことんまで君に付き合うからね。


 ぼくは彼女のつむじに唇を当て、修正が終わるまで寄り添い続ける。

 時刻は午後七時。夜はまだ長い。



 ―End―


 ※擬人化は「残業」です。
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