グリッタリング・グリーン
かわいそうだ。
葉さんは、人に美しいものを見せたくて、それが楽しくて、仕方ないだけっていう人なのに。
業界に名を轟かすお父さんがいて、だからこそ純粋に自分の作品を見てもらうことを、切望している人なのに。
会社を出て、慧さんのアトリエへ向かう道すがら、泣きたいような気持ちになった。
葉さんが、あそこまで警戒してたのも、当然だ。
かつていいように利用された傷は、そう簡単に、癒えないんだ。
携帯が震えた。
見たら葉さんで、ちょっと慌てた。
「はい」
『できたよ、近いうちにとりに来て』
「えっ?」
なんの前置きもない要求に、何がでしょう、と思わず問い返すと、向こうも、え? と訊き返してくる。
『原稿がだよ』
あ! と正直に声をあげてしまった私に、葉さんがひんやりと応じた。
『遠距離ボケ?』
「ボケてません、葉さんの納品が、いつにも増して早いので」
「だよね、よかった、ちょっと離れてる間に、絵の仕事クビにされたかと思ったよ」
すみませんでしたって何度も言ってるじゃないですか…。
久しぶりに訪れたアトリエに、上がらせてももらえず、冷ややかに見おろされながら玄関でひたすら頭を下げた。
「痛」
頭に、ぱしんと何かが載せられた。
封筒だ。
「ありがとうございます、拝見します」
「確認ついでに、コーヒーでも飲んでったら」
「え」
顔を上げた時には、葉さんはもう廊下の奥へ消えていた。