グリッタリング・グリーン
「あっ、これ」
「店頭に置いてあったから、もらってきちゃった」
私が表紙を描いた冊子が、通された広いほうのアトリエの机の上に、あった。
見てもらいたかったくせに、いざとなると恥ずかしい。
「い、いかがでしたか」
「俺は好きだよ、ていうか元から、生方の作風は気持ちいいなって思ってたよ」
はい、と渡されたコーヒーカップを、受けとった感覚もなかった。
こっちの舞いあがりっぷりに気づきもせず、葉さんは冊子を手にとって、しげしげと眺める。
「せっかく俺たち、お互いを知ってるんだし、こうなると、連作とかテーマものとか、やりたくなるよね」
「いやっ、なっ、えっ」
何、変な声出してんの、と葉さんが目を丸くした。
もう、こういうレベルの人って、自分がどれだけ違う次元にいるのかとか、かえって考えないんだろうか。
アトリエの壁にかかっているホワイトボードは、びっしりと絵と文字で埋まっている。
ひと目で、この間エマさんが持ってきた、スポーツブランドのCFのイメージだとわかった。
たぶんあのあとすぐに関係者が集まって、ここで打ち合わせをしたんだろう。
葉さん、あなたは。
そういう世界の、人なんですよ。
「こっちじゃない、そっち」
「あっ、え?」
葉さんの車は、使いこまれた感じの、可愛らしいブルーの輸入車だった。
慧さんのアトリエに向かう私を、突然「送ってく」と言いだした彼について裏手に行くと、驚いたことにガレージがあり。
助手席側に回ったつもりの私は、なぜか葉さんとかち合い、言われてそこが運転席なのに気づき、反対側に急いだ。
左ハンドルか。
しかもマニュアル。
「俺、免許もあっちでとったから、むしろこうじゃないとダメなんだ」
興味津々で観察する私に、心なしか恥ずかしそうに言い訳する。