グリッタリング・グリーン
「偶然中古で見つけたんだけどさ、わざわざこの車で左ハンドルって、おかしいよね」
ぽかんとすると、エンジンをかけながら葉さんも、きょとんとした。
「これ、イギリスのメーカーだろ、あっちは日本と同じ左車線だから、元は右ハンドルなんだよ」
「あっ、なるほど」
「だからこいつは、米国輸出仕様なの、それをわざわざ日本で買うっていう」
あはは、ようやく理解できました。
細い私道に、葉さんが慣れた様子で車を出す。
「車、お持ちだったんですね」
「そりゃ、こんな仕事だからね」
「機材を運んだり?」
「うん、場合によっちゃ軽トラだって転がすよ」
葉さんが!
想像すると楽しくて、思わず笑った。
コンパクトな車は、都内を小気味よく走った。
男の人の車に乗る機会なんて、そうない。
ましてや葉さんのなんて、想像もしてなかったので。
ドリンクホルダーの汚れた灰皿とか、助手席に投げ出されてたサングラスとか。
そんな生活感に、戸惑ってしまう。
どうして急に、乗せてくれたんだろう。
「…エマさんのこと、お訊きしてもいいですか」
絞られたラジオの音の中、今なら許される気がして、思いきって切り出すと。
葉さんは、いいよ、とうなずき。
それっきりだった。
…あれっ、私がイチから質問する流れ?
ええと、ええと…。
「…どこでお知りあいになったんですか」
「彼女、元はキュレーターなんだ、俺がまだ半分絵描きやってた頃、向こうから見つけて、扱ってくれたんだよ」
「おいくつ、ですか?」
「正確なところは俺も知らないんだよね、5つか6つ上だと思うんだけど」