グリッタリング・グリーン
車の右前からの景色は、慣れない。

葉さんはいつもの、少しぼんやりした瞳で前を見て、黙ったままだった。

思い出してるんですか。

どんなことをですか。



「あきれた?」



だしぬけに、そう尋ねられた。

えっ?



「何にですか?」

「俺に。親父のおこぼれに、がっついたりしてさ」



自嘲気味に肩をすくめてみせる。

驚いた。

そんな、自分の行動がどう思われるかなんて、気にしたことのない人かと、思ってた。



「あきれたり、しないですよ、むしろあそこで断ってたら、何してるんですか意地っ張りって、あきれました」

「そう」



葉さんはぷっと噴き出して。

それきり何も、言わなかった。


あきれたりなんて、するもんか。

それどころか私は葉さんの、プロとしての貪欲さに、惹かれました。


大きな仕事は、賭けでもある。

全世界に発信されるクリエイティブで失敗したら、つまりは全世界に笑われるってことだ。

あるレベル以上のクリエイターほど、そのリスクが、明確なプレッシャーとしてのしかかるだろうに。

それでも、やる、とああして即答できる人が、どれだけいるだろう。


私は、かっこいいと思いました、葉さん。


それから、気づいてますか。

慧さんが、仕事が葉さんに渡ることに対して、なんの不安も不満も、抱いていないふうだったことを。

むしろ誇らしげに、わかりづらい鼓舞を送ってたことを。

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