グリッタリング・グリーン
「何笑ってんの」
「いえいえ」
「感じ悪いな」
どう解釈したのか、葉さんが右手を伸ばして、私の頭をぐいと押した。
やめてください、と笑いながら。
ドキドキと鳴る鼓動のせいで、身体が弾みだすんじゃないかって気がしていた。
「やめてくださいったら」
「そっちこそ、笑うのやめろよ」
赤信号なのをいいことに、腹立たしげに頭をかき回されて、つい悲鳴が漏れる。
もう、と押しのけようとした時、目が合った。
その瞬間。
一瞬前まで笑ってたことなんて、忘れてしまった。
ラジオがかすかにうなるだけの、しんとした車内。
葉さんの指が、私の頭の上で、ためらうように遊んで。
くしゃくしゃにしたのを詫びるみたいに、髪を優しくとかしながら、肩に下りる。
葉さんの唇が、わずかに動いた。
生方、ってささやいてくれたのが、わかった。
ゆっくりと近づく瞳は、見とれるほど綺麗で。
つかまれた肩が熱い。
だんだん、近すぎて何も見えなくなってきたので、ようやく目を閉じても惜しくないと思えた頃。
後続車のクラクションに、息がとまりそうになった。
瞬時に私をほうり出して、葉さんが勢いよく車を出す。
ルームミラーをのぞきながら、畜生、と低く吐き捨てたのに、笑ってしまった。
「後悔しろよ、急ブレーキ踏んでやる」
「ダメですよ」
冗談だよ、とふてくされる顔は、赤く。
首のうしろをかきながら、目を合わせたり泳がせたり、最後には、どうしようもなくなったみたいに笑う。
その笑顔が、あんまり照れくさそうだったので、私はなんだか安心して。
昔のこととか。
エマさんのこととか。
訊くのは先送りにしよう、と思うダメな自分を、見逃すことにした。