グリッタリング・グリーン
雨が、しとしととカフェの窓ガラスを濡らしていた。
歩行者天国の大通りを挟んだ、向かいのビルをぼんやりと眺めながら。
「うまいなあ」
葉さんが、ぽつりと言った。
アートディレクター、聖木慧の最新作は、梅雨の始まりを予感させる小雨の中で、静かにベールを脱いだ。
一面ガラス張りのビルの、巨大なショーウインドウの中に佇む、白木と紙でできた、シンプルなオブジェ。
日めくりカレンダーみたいに束ねられた紙が縦横に整列して、美しくスタイリッシュな絵を構成している。
葉さんと私が見守る前で、ぱたり、と紙が回転し、絵が変わった。
ただそれだけの、静かな静かな芸術。
「あんな、小学生の工作みたいな発想で」
アイスティのグラスを、水滴が伝う。
煙草の煙が、ため息の軌跡を白く描いた。
「あの存在感は、反則」
慧さんの作品を、見に行こうと誘おうと思ってたのは、私だった。
でも、誰が行くかって言われるかも、と考えあぐねていたところに、葉さんのほうから、声をかけてきた。
ひとりで見るの悔しい、とどこまでも素直な誘い文句に、私は笑って。
設営の最中から、特等席だと狙ってたこのカフェに、彼をつれてきた。
突然そよ風が吹いて、パタパタパタ…と紙が次々に、慌ただしく回転する。
風なんてあるわけない、ウインドウの中なんだから。
でもあのアートはそんなふうに、風や空気の流れを、感じさせる。
木の葉がそよぐ、優しい音すら聞こえてくる気がする。
「あのやかましい親父から、どうやってこんな静かなものが出てくんのかな」
「現場も、ずっとにぎやかでしたよ」
「生方は、どのあたりをやってたの?」