グリッタリング・グリーン
通りの向かいのビルを見ながら談笑している部長たちの目を盗んで会計し、お店を出た。

死角になる場所まで走って、ようやく息をつく。


目を見あわせて、そぼ降る雨に濡れながら、お互い同じことを考えているのがわかった。

傘を忘れてきた。



「あとでとりに戻ろう」

「すみません」



葉さんは元々持っていなかったので、忘れたのは私だけ。

いや、と歩きだした葉さんは、どこか上の空だった。

わざわざ雨の当たる道の真ん中を歩いてしまいがちな彼の、袖を引いて建物の屋根の下に誘導する。

やがて、俺さあ、と口を開いた。



「本気であのふたり、くっついてほしいと思ってるんだ」

「でも…」

「親父と母さんなんて、時間の問題だしさ」



ほんとに、そうなんだろうか。

慧さんと沙里さんは、なんだかんだ、いいパートナーにも見える。



「そりゃ別居のおかげ。俺が家にいた頃なんて、顔を合わせりゃ罵りあいで、すごかったんだぜ」

「いつから、そんな感じに?」

「俺の知る限りずっと。たぶん元からそうなんだよ、加塚さんがいると、ちょうどいいバランスになるってだけで」



ほんとに無造作なのか、そう整えているのかいつもわからない髪の毛に、水滴が光る。

眉根を寄せて、頑なに言った。



「結婚したのが間違いだったんだ」



きっと葉さんは、お父さんへの不満とか怒りとか、お母さんへの同情とか、そういうものをずっと持って育ったんだろう。

家族のことは、他人にはわからない。

私に何が言えるはずも、なかった。






「加塚部長、立ち寄り?」

「ううん、今日はゆっくり出社するって、朝に電話が」



翌日、そんな会話に耳が釘づけになった。

こういう表現が正しいのか知らないけど。



「珍しいね」

「ゆうべ遅かったのかな」


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