グリッタリング・グリーン
『もうさあ、大人のくせに何やってんのって言いたくなるんだけど』
「ですがやっぱり、一方にはまだ家庭があるわけで」
『その家庭のひとりが、とっととしろって祈ってんだよ』
「でも肝心の、沙里さんのお気持ちも」
『見ててわかんない? 母さんは加塚さんみたいの大好きなんだよ、気強いぶん、甘えさせてくれる人がいいの』
「だって、じゃあどうして、慧さんと…」
『俺も、23年間それが疑問だったって、言ってんだろ!』
なんだかわからないうちに、怒られた。
そして電話を切られた。
次回の打ち合わせの日程を決めようと思ってたのに、できなかった。
あとでもう一度、電話しないと。
通話時間の表示を見つめながら廊下に出たところで、再び加塚部長とばったり会ってしまう。
「まだ顔赤いぞ」
「だ、大丈夫です、失礼しました」
「何が?」
邪推して。
とも言えず、曖昧に首を振って、走って逃げた。
大人の恋って、複雑だ。
好きな人が、自分の友達と結婚してしまうって、どんな気持ちなんだろう。
葉さんの話では、葉さんができた時、別に沙里さんと慧さんがつきあってたとか、そういうわけじゃないらしい。
仲良し三人組のうちふたりが、なんでか突然、そうなってしまったのだ。
まだ学生の頃。
それを知った部長は、どんな思いだっただろう。
そのあとも仲良しのままで、ふたりの息子も可愛がって。
考えただけで切ないのに。
苦しくないんだろうか。
『決めたよ、俺、ちょっと動く』
「えーと、ご移動ですか?」
かけた電話で、繋がるなり向こうから話しかけてきた。
打ち合わせの話をしようと思っていた私は、一瞬空回りしてしまう。
なんの話してんの、とあきれられて、それはさすがに理不尽だと思った。