グリッタリング・グリーン

『加塚さんと母さんだよ、あんまりじれったいから、なんか仕掛けてやろうかと思って』

「え」



仕掛けるって。

葉さんなら、ものすごい大胆なことをしそうで、怖い。

会社帰りだった私は、入ろうと思っていたコンビニの前で思わず立ちどまった。



「たとえば、どんなことをですか」

『考え中、いいアイデアあったらちょうだい』



それより今度こそ打ち合わせのお話を、と切り出そうとした時、携帯の向こうから葉さんを呼ぶ声がした。



『まとまったわよ、確認して』



エマさんだ。

今見る、と葉さんが返事をする。



「…すみません、ご来客中でしたか」

『あ、うん、別にいいよ、ところでなんの電話だった?』



上の空で、週内のアポをとった。

コンビニで何を買おうとしてたのか、忘れてしまった。


“ご来客中”なんて。

エマさんが来てるんですねって、どうして正直に訊けなかったんだろう。

…どうして、エマが来てるんだよって、教えてくれなかったんだろう。


もうすぐ、夜の11時。



ねえ私、もしかして。

人の恋路に首突っこんでる場合じゃ、ないんじゃない?






「職場、このへんなんですか」



天気がいいので、会社近くのカフェのテラスで昼食をとっていたら、美しいアルトの声がした。

パスタフォークをくわえた私に、青い瞳が微笑みかける。

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