グリッタリング・グリーン

「ショートフィルムをつくらせたら、世界でも十指に入る監督よ、彼との出会いは、葉にも必ずプラスになる」

「あの、でも、葉さんってそういうの、お嫌いじゃ」



思わず話を遮った私を、エマさんが不思議そうに見た。



「嫌い? どうして?」

「だって…」



そこにコーヒーが運ばれてきた。

店員さんが去るまで、エマさんがじっと私を見つめる。



「昔の話を、聞いたのね」

「葉さんからでは、ないんですが」

「あれは確かにかわいそうだった。でも今度の話は違うわ、アーティスト自身が出ることで、得られるメリットもある」



耳を疑った。


かわいそうだった。

メリット。


何、それ。



「…メリットって」

「あ、誤解しないで、葉にとってのメリットってことよ」

「本人の気持ちを無視して、それで得られるメリットって、いったいなんですか」

「無視するなんて誰が言ったの、ちゃんと話すわよ、説得する自信はあるけど」

「やめてください、エマさんからそんな話、しないであげて」



よりによって、エマさんから。

そんな話を持ち出されるだけで、彼がどれだけ傷つくか。


華奢なカップを口元に運んで、エマさんが軽く肩をすくめる。



「じゃああなたの教えに従って、直前まで葉には、黙っておこうかしら」

「顧客の思いを代弁してあげるのが、エージェントなんじゃないんですか」

「そうよ、でも顧客の利益を守るのも仕事なの、意外に、何が自分にとっての利益なのか、意識してない顧客が多くて厄介」



アーティストってほんとお馬鹿さんね。

独り言みたいにそう言って、くすっと笑った。

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