グリッタリング・グリーン

「そこが愛しいんだけど。葉ももう、トラウマを引きずってていい時期じゃないわ、脱皮しないと」

「そんなの、無理にさせたら、ケガします」

「そう? 私なら、うまく剥いてあげるけどな」



青とも緑ともつかない瞳が、意味ありげに私を見る。

グロスが落ちた代わりに、オリーブオイルで艶めく唇が、ふっくらと笑む。


あ、とその時、気づかされた。


そうか、この人。

葉さんの、最初の人。






『騙されたと思って、言うとおりにしてみてよ、これで格段にそれっぽくなるんだから』

「私レベルでも、綺麗にできる?」

『難しかったら、同色のテープ使ってもいいよ、アイロンで簡単につくやつ』

「あ、そういうのもあるんだ」



あるよー、という声にほっとしたら、手元の縫い針が指を刺した。



「痛あ!」

『…朋枝ってもっと器用じゃなかったっけ』

「ちょっと今日、集中力がなくて…」

『そういえばね、朋枝のポストカードを買ってくれた人が、ほら例の、メーカーの冊子? の表紙の人だねって話してたって』



わっ、すごい偶然。

でも嬉しい。



『忙しそうだけど、時間あったらまた描いて。夏には私、自分のオンラインストアをオープンするつもりなの』

「すごい、面白そう」

『まー最初は副職としてやってみるけど、いずれはこれで稼げたら、いいなあとか、ね』

「香織(かおり)は商才ありそうだから、いけるよ、私も香織のアクセサリー、そこで買う」



あはは、と美大時代からの友人は笑った。



『いつか朋枝にも、ギャラを払って描いてもらえるようになるからさ』



久しぶりに、そんな無邪気に、夢を語った。

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