グリッタリング・グリーン
ちくちくと、あんまり得意じゃないお裁縫をしながら、またぼんやりしてしまう。

エマさんは、最後のほう、私に敬語を使うのを、やめてしまった。


使うに値しない相手だと思ったんだろう。

仕方ない、圧倒されっぱなしで、気の利いたことも言えなくて。


彼女が日本に、長く滞在する予定じゃないって聞いた時。

ほっとしたのを、きっと見逃してはもらえなかった。


情けない。


私は、エージェントとしての彼女が、葉さんを好き放題しようとするのが、許せないんだろうか。

それとも女性としての彼女に、葉さんに近づかれるのが、嫌なんだろうか。


きっと両方だから、嫌になる。



『葉はよっぽど、私に懲りたのね』



お先に、とバッグをとりあげたエマさんが、世間話のように何気なく言った。



『あなたみたいな子を、好きになるくらいだもの』



気がつくと、テーブルの上の伝票がなかった。

自分が隙だらけの子供みたいに思えて、落胆した。


私、じゃなくて。

私、みたいな、子。


わざわざ、そんな言いかたしなくてもいいじゃないか。

もう泣きたい。


どうせ私は、葉さんの名声を今ごろ知って、怖気づいて返事もできずにいる、意気地なしです。

このまま流れに身を任せているうちに、なるようにならないかななんて考えている、他力本願のダメな奴です。


でもね。

葉さんが傷つくのは、嫌です。


彼にはいつだって、仏頂面で傍若無人に、歩いていてほしい。


エマさんにはエマさんなりの、信条があるんだろう。

けどそれが、結果的に葉さんを傷つけることになるなら。


私は何度だって。


やめて、と叫びます。



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