グリッタリング・グリーン
細いヒールのパンプスが、玄関に揃えてあった。
明かりのついていない廊下の奥で、人影が動いた。
私がいることに気づいていないんだろう、葉さんが誰かと話しながら、こちらへ来る。
ふいにその誰かが、葉さんを壁に押しつけた。
何か言いかけた唇が、ふさがれる。
さらりと揺れる、琥珀色の髪。
グロスが移ったのか、手の甲で口元を拭きながら、葉さんが顔をしかめる。
「何」
「挨拶よ」
今のはね、と微笑んで、エマさんはもう一度、葉さんにキスをした。
今度は確かに、挨拶じゃない。
ちょっと逃げるように、葉さんが身体を引いたのに、救われた思いがしたけど。
それも一瞬のことで、葉さんは難しい顔のまま、エマさんの唇を受けとめていた。
「懐かしい?」
葉さんの首に抱きついて、エマさんがささやく。
ぴたりと合わさった身体が、キスの角度が変わるのに合わせて揺れる。
やがて葉さんが、呻くような声を漏らして。
何か吹っ切ったように、乱暴にエマさんの腰を抱いた。
──なんて夢!!
金縛りにでもあったみたいに、身体をこわばらせたまま、ぜえぜえと肩で呼吸した。
自分の想像力がうらめしい。
枕元の携帯で時刻を確認して、まだ鳴る前のアラームをとめると、シャワーを浴びにベッドを出た。
「どうしたの朋枝ちゃん、立ち寄りは?」
「先にひと仕事してこうかと、未希さんこそこんな早く」
「今日早く帰りたいから、片づけちゃおうと思って」
まだほとんど人のいないフロアに、未希さんのいれたコーヒーの香りが漂っている。
どさりと椅子に身を投げ出した私に、どしたの、と未希さんが驚いた。