グリッタリング・グリーン
でも。

車で送ってくとか。

せめて葉さんは自宅に帰るとか。


選択肢はあったと思うんだけど。

それを選ばないくらいには、ふたりにとって、ひとつ屋根の下で寝るってことは、自然な行為なわけですね。



「黙るなよ…」

「すみません…」

「無神経だったよ、謝るよ」



今気がついたよ、と弱りきったような声が言う。



「いえ、私、別に…何か言える立場でも、ないですし」

「そんなこと」

「葉、ライターない?」



横手の引き戸がからりと開いて、髪をかきあげながら、エマさんが顔を出した。

昨日と同じ、シフォンのブラウスと黒いスカートが、少しくたびれている。

ストッキングは…履いてない。


葉さんがジーンズのポケットを探って、ライターをとり出し、ほうった。

鮮やかに片手で受けとめて、くわえていた煙草に火をつけると、私ににこりと笑いかける。



「おはよう、もう葉から聞いた?」

「何をですか」



ふっと上品に煙を吐いて、長い脚が数歩、近づいた。



「CFに出るってこと」



思わず葉さんを見た。

葉さんは、何をそんなに驚くのかわからないらしく、目を丸くする。



「いいんですか?」

「何が?」

「せっかく心配してくれたけど、葉には必要なかったみたいね、でもお礼を言うわ、ありがとう」



メイクの落ちた顔はそれでも華やかで、白い指が、葉さんの腰をなぞるように回りこみ、ポケットにライターを押しこんだ。

なんの話? と葉さんが私たちを見る。

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