グリッタリング・グリーン
「いけね、レセプション、けっこうちゃんとしてる」
たどりついた古めかしい映画館のロビーに設置された受付を見て、どうするかな、と葉さんが顔をしかめた。
なんとなくふたりしてこそこそと、物陰から様子を伺ってしまう。
「正規の案内状がないと、入れないでしょうか」
「普通はね、でもまあ、やってみよう、調子合わせてよ」
調子? と首をひねる私をつれて葉さんは受付へ行き、カウンターの奥の女性に愛想よく話しかけた。
「すみません、聖木慧の代理の者ですが」
「ようこそ、ご案内状を頂戴できますでしょうか」
「それが、持ってなくて」
「ではお名刺をいただいてもよろしいですか」
葉さんがパンツのうしろポケットから、革とアルミでできたカードケースを出して、名刺を渡した。
「マサキ、ケイさまの代理でらっしゃいますね…あら」
何か書きつけていた女性が、当惑した声をあげる。
「聖木様は、すでに代理の方がお見えになっていらっしゃるようです」
「え?」
葉さんがカウンターに乗り出して、女性の手元の名簿をのぞきこんだ。
「マジかよ、話が違うじゃん、親父の奴」
「まあ…行き違いがおありでしたか」
「なんとか入れない? 連れもいるんだ、帰れないよ」
私を手で示して、ねえわかるでしょ、という感じに、背の高い女性を見あげる。
私は、なるべく不安かつ不服そうに見えるよう、身体の前でバッグを握って立っていた。
綺麗なまとめ髪の女性は戸惑い気味に、時計と名簿に目を行き来させて。
葉さんの甘えた視線とぶつかると、ためらいがちにまばたきし、お待ちくださいませ、と裏に消えて、すぐに何かを手に戻ってきた。