グリッタリング・グリーン
「出ようよ、こんなの生方と見らんないよ」
「でも、今から出たら、変ですよ」
「じゃあ一緒に見んのかよ!」
「仕方ないじゃないですか!」
周りに人のいない、端っこの席でよかった。
おかげで私たちの、バカバカしくも必死な言い争いを、聞かれずに済んだ。
知らないからな、と意味のわからない捨て台詞を残して、葉さんはすっかりふてくされて、椅子に身を沈めてしまった。
そんなこと言われたって、私だってどうしようもない。
慧さん、なんでよりによってこんな映画。
加塚部長たちは、こういう作品だってことを、知っていて来たんだろうか。
その時、あれっ、と思った。
もしかして、慧さんは。
慧さんも。
「よくあんな映画で眠れますね」
「だって序盤、退屈で…」
「結局そういうシーンがなきゃ、飽きちゃうんじゃないですか!」
「そんなこと言ってないだろ、寝不足だったんだよ!」
結果的に、もはや理解を超えて官能的だった映画をひとりで鑑賞するはめになった私は、恥ずかしさから語気が荒くなる。
気づいたらぐっすりだった葉さんを責めつつも、彼が物語が始まる前に寝てしまって、本当によかったと思った。
あれをふたりで見てしまったら、気まずくて気まずくて、今ごろこうしてなんていられない。
その時、聞きなれた声がして、お互い口を閉ざした。
沙里さんと部長が、映画館の前の石段を下りてくるところだった。
大きな柱の陰から見守る。
これから夜のパーティだからか、沙里さんが肩を隠していた薄手のストールをさっととって、うーんと男まさりな伸びをした。
華奢で、白い肌の沙里さんは、可憐なのに色っぽくて、それでいて自然体で、同性ながらぐっとくる。
スーツ姿の部長が笑いながら、そんな彼女を守るように、少しうしろを歩き。
さらさらしたストールをとりあげて、沙里さんの首にくるんとひと巻きしてあげた。
沙里さんが満足そうに笑って、振り返る。
手をつなぐでもなく、腕を絡めるでもなく。
恋人というには抑制が効いていて、友達というには、親密な距離。