グリッタリング・グリーン
「よく会うね」
DMの修正を見せにクライアントの会社に行った帰り、同じ駅でまた葉さんに遭遇した。
駅に入ろうと細い道の横断歩道を渡ろうとした私は、道を走っていた人と直角にぶつかってしまい。
すみません、とお互い謝ったら、相手が彼だった。
雲ひとつない晴天だけど、そのぶん気温はぐんと低く、私はタイツを二枚履きしているような状態なのに。
なぜか葉さんはダウンのジャケットを腰に巻いて、黒いシャツをひじの上までまくり、息を切らして汗までかいていた。
「…なんの最中ですか?」
「何が?」
眉をひそめる葉さんが無造作に前髪をかきあげると、汗がしぶきになって光る。
同じく汗の染み込んでいるシャツからは、普段の低温な彼からは想像もつかないような男の人の空気が立ちのぼっていて、私はなんでか居心地が悪くなった。
大きなポータル駅の裏口にあたるここは、一年中陽の差さない場所に先日の雪がまだ残っている。
立ち止まったせいで冷えたのか、葉さんが顔をそむけて、くしゃみをひとつした。
「あっ、すみません、お引きとめして」
「今度、彩色したのも見たいんだけど」
腰に片手をあてた彼が、鼻をすすりながら私を見下ろす。
全然違う話が返ってきたので、まったくついていけず、思わずぽかんと見返した。
この人の話を聞かない感じが「気難しい」とか言われちゃうゆえんだろうなあ、と考えて、あ、私の絵の話か、と気がついた。
「サンド系のメディウムに、ちょっと重めのテクスチャ置いたりとか、そんな感じ、合いそうだよね」
「すごい、そのとおりです。たいていそういうの盛って、彩色はアクリルです」
あっさり見抜かれたことがいいのか悪いのかわからないけれど、とりあえず私は、彼と何かを共有できたことに興奮した。
絵によって変えることもあるけど、私のスタンダードな作風は、ざらっとした地にアクリルガッシュでぽってりと塗る方向だ。
そうすることで再現できる、スタッコ壁にペンキで描いたようなイメージが、ポップで元気があって好きなのだ。