グリッタリング・グリーン
「申し訳ございません、お部屋をご用意いたしますので」
「そんなことしないで、私、部屋を上にいただいてるの、ふたりともそこで着替えるわ」
「ではタオルとお飲み物を、お持ちいたします」
ひたすら恐縮している会場の人と、沙里さんたちの姿が見えた。
ドレスとスーツが、白っぽいものでどろどろだ。
「ん、これ、おいしい!」
「食うなよ、そんな服についたの…」
スカートについた固まりを、ひょいと口に入れた沙里さんを、部長があきれてたしなめた。
わかった、あれ、ケーキだ。
慌ただしくも楽しそうに、ふたりがエレベーターに駆けていく。
よし、と葉さんがつぶやいた。
「できることはやったかな、服を買いに行くには遅いし、少なくとも数時間、部屋で過ごさなきゃならないはずだ」
「どうなるでしょうか」
「ベッドを前にして、男と女がすることっていったら、ひとつでしょ」
「そこまで単純なものですか」
「少なくとも俺なら、ダメ元でも誘うだけ誘ってみるね」
…いばることかな。
ようやくこそこそした立場から解放されて、階段の陰からロビーに出る。
瞬間、慌ててもう一度、階段の陰に駆けこんだ。
まだ部長たちが、エレベーターの前にいて、危うく鉢あわせするところだったのだ。
「あっぶねー!」
「葉さん、しー! 何か、雰囲気が」
沙里さんが、部長のポケットチーフで、首周りのクリームを拭ってあげているところだった。
汚れた上着を脱いで、スマートなベスト姿の部長が、くすぐったそうに首をすくめる。
沙里さんが何か耳打ちすると、部長が噴き出した。
いかにも友人同士という感じで、あけっぴろげに笑いあったふたりは、ふいに視線が絡まると。
戸惑ったように一瞬、見つめあって。
そうとはわからないくらい、ほんのかすかに。
ためらいがちに、控えめに。
唇を触れあわせた。