グリッタリング・グリーン
「印刷会社のコンペ、ですか」
「ええ、購買部が最近うるさくて、全案件に相見積りをとれと、そんなんじゃこっちは仕事にならない」
「それで一度、数社で競わせるんですね」
そうなんです、とクライアントである家電メーカーの宣伝課長さんが肩を落とした。
「私たちも経験でわかります、加塚さんとやってくださってるところが、どう考えたって一番ですよ」
「そうおっしゃってくださるのでしたら、我々も一緒に、戦略を練らせてくださいませんか」
加塚部長の提案に、先方が顔を輝かせる。
「お願いできますか、いくら安くても、馴染みのない会社さんに入ってこられては、弱ってしまいます」
「お察しします、戻ってすぐに、関係者で打ちあわせますよ、またご連絡します」
拝みはじめるんじゃないかってくらいの課長さんと、軽く方針のすりあわせをして、年季の入った社屋の会議室を辞去した。
「最後、生方には退屈な話になっちゃったな、つきあわせて悪かった」
「勉強になりました、今日は加塚部長と一緒に来てほしいって、あのお話のためだったんですね」
「何かと思ったけど、ああいう話なら、力になれそうだ」
実のところ、よくわからない話だったので、つまりどういうことなのか訊いてみると。
初夏の日差しの下、部長は上着を脱いでネクタイをゆるめながら、説明してくれた。
「先方の購買部とは、生方もつきあいがあるだろ」
「はい、価格交渉の窓口の部署ですよね」
「そう、あの会社は今、実際に制作をする宣伝や販促部門と、制作にかかわる買付けをする購買部門の、仲が悪い」
「旦那さんがゴルフクラブを欲しがっているのに、奥さんがダメって言ってるようなものですか?」
わかる範囲で例えてみたら、部長が噴き出した。
惜しい、と笑い混じりに言う。