グリッタリング・グリーン

「どんなゴルフクラブを、いくらで買うか、奥さんが決めると言い張っているようなものだ」

「でも、使うのは旦那さんなのに」

「そこなんだ」



本来、制作部門の意図を汲みつつ、最適な買付けをするのが役目のはずの購買部門が、発言権を持ちすぎたらしい。



「あそこの購買部は、取引先にいくら値引かせたかで、部員の成績が決まるんだよ」

「でも、値引き額が大きいからって、いい取引とは限りませんよね」

「まさしくね、でも“いい取引”ってのは、実務にあたった制作部門が感覚的に得る評価だから、購買部と共有するのは難しい」



なるほど。

たとえば価格が少し高くても、営業がすごくよくやってくれたとか、一発でスパッと望む仕上がりに至ったとか。

そういうプロセスを知らない購買部門が、ほぼ価格だけで取引先を決めてしまうってことだ。


それは、聞くだによくない。

といっても、もはやクライアントの社内の勢力図の話になってしまうので、私たちには手が出せない。

せめて懇意にしている宣伝課さんの、思うとおりにコンペが進むよう、ちょっと裏工作するくらいだ。



「今回は印刷会社の話だけど、俺たちも無関係じゃないんだよ」

「えっ」

「うちは今、良心的な価格で最大のパフォーマンスを提供してる。それはつきあいの深い印刷会社があってこそだ」

「あっ、わかりました、印刷会社だけが今回のコンペで入れ替わってしまったら…」

「俺たちのコストにも、無理が出るってこと」



部長の親身な提案は、結果的には、自分たちを守るためでもあったのか。

さすが、鮮やかに抜け目ない。


わかったろ? と問いかける、知的で優しい瞳の奥に、何か他のものが見えないかな、とのぞいた。


特に何も見えなかった。

大人の恋心は、どこで燃えているんだろう。



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