グリッタリング・グリーン
おーい、という電話口の呼び声に、我に返った。
「あっ、失礼しました、なんでしょう」
『加塚に言づけてくれよ、例の打ち上げパーティの招待状、会社宛てに送っといたって、もちろん嬢ちゃんのも』
「わあ、もうそんな時期ですか」
『も少し先だけどな、あとちょっとであの展示も終わるしよ、嬢ちゃんとはまた何か、やりたいな』
いつもと変わりなく、じゃあなと明るく笑う。
慧さんは、何を思ってるんだろう。
「うちの課長が、近々加塚さんと一杯やりたいって言ってましたよ」
「本当ですか、じゃあ、加塚からご連絡させます」
先日コンペの話が出た会社の、宣伝担当の女性がころころと笑った。
「もう課長、加塚さんが協力してくれるって言ってくださったら、とたんに安心しちゃって」
「よかったです、あの印刷会社さんと弊社は、上同士が懇意ですので、いろいろお力になれると思います」
「私も行きたいなあ、その飲み。加塚さんてバツイチでしたっけ?」
いえバツなし独身です、とカタログの校正をデスクに広げながら言うと、えええと驚かれる。
「信じられない、もったいない」
「よくそう言われてます」
「なんでされないんでしょう」
「今さら面倒、って公式には言っているようですが」
女性らしいのに、赤ペンのフタを口で外すタイプの担当さんは、手早く数ページに朱を入れながら。
「結婚てほんと、タイミングですもんねえ」
30代の重みを感じさせる発言をした。
「ついに親父と母さんまでケンカしたって、まあこれはいつもだけど」
「えっ、大丈夫なんでしょうか」
「母さんも、親父があれこれ仕組んでたことに、やっと気づいたらしくて」
「葉、動かないでよ」