グリッタリング・グリーン
「ただでさえ華奢なのが、さらに強調されて、子供みたいに見えちゃうわ」
「言うほど俺、小さくないんだけど」
「身体が薄いから頼りなく見えるのよ、肉をつけなさい」
気にしていたらしい葉さんは、ちょっと恥ずかしそうに私を見て、黙ってしまった。
残りの衣装をチェックしながら、エマさんがうなり声をあげる。
「いまひとつ」
「やっぱり、いつもの恰好が一番、似合いますね」
夏でも冬でも、葉さんは黒のトップスにデニムという服装を貫いている。
何を着るか考えるのが面倒なのかと思っていたら、それもあるけど、と前に説明してくれた。
一定でいたいんだそうだ。
服はよくも悪くも、着ている人に影響を及ぼすから、それが感覚にまで及ぶのが、嫌らしい。
毎日スーツ着て絵を描けって言われたら、無理だろ、と言われ、確かに、と思った。
できなくはないけど、その状態で自分のベストの作品をつくり続けられるかと言われたら、自信がない。
『別に黒に意味はないよ、たまたまいっぱい持ってたの』
意固地というほどでもなく、ただのこだわりで片づけるには筋が通ってる。
葉さんらしい。
「さっき着てた服、どこ」
エマさんの指示に、葉さんがデニムとシャツを廊下から持ってきた。
ベルトを通しっぱなしの、くたびれたジーンズと、どこにでもあるような、コンパクトな黒いTシャツ。
「朋枝さんの意見を採用するわ、これで監督に戻す」
「え」
そんな、ただ思ったことを言っただけなのに。
エマさんはてきぱきと、机の上に上下の服を並べて、スタイリストさんに写真を撮ってもらう。