グリッタリング・グリーン
「デニムのブランドタグさえ映りこまなければ、問題なさそうですね、まあでもボロボロなので、どうせわからないかな」
「あとからでも消せるしね、それにしても小汚いわねえ、洗ってるの?」
「洗ってるよ!」
好き放題言われて憤慨する葉さんを、あらそう、と一蹴すると、着てもいいわよ、と元の服をほうる。
葉さんが再び廊下に消えると、エマさんがどこかに電話をかけはじめた。
少しやりとりして、待って、また会話。
葉さんが戻ってくる頃には、結論が出ていた。
「監督のオーケーが出たわ、これでいく」
「わかった」
「靴はクライアントのブランドで用意するから」
了解、とうなずいて、葉さんは自分のPCで、たぶん今回の制作のシミュレーションモデルみたいなものをチェックしはじめた。
私は、目の前で物事が決まっていく過程に圧倒されていた。
日本とアメリカの、二カ国をまたいだ制作なのに、このスピード。
「エージェントって、こんな細かいことまで見るものなんですか」
「場合によるわ、マネージャーみたいにべったりつくこともあるし、二者を繋いであとよろしくってこともある、今回は…」
そうね、と長い髪をひとつにまとめながら、青い瞳が、ちらっと背後の葉さんを見た。
「私が、やりたいだけよ」
さっと手櫛で結っただけなのに、どうしてこんなにかっこよく、美しく決まるんだろう。
葉さんは、確かに過去、エマさんとすごく近い関係にあったんだろうという気配を、ふとした時に見せる。
それはたとえば、私と彼女が向かいあっている時に、当然のようにエマさんの隣に座る、何気なさだとか。
コーヒーなんかのちょっとした支払いが、気づくとだいたい、ふたりの間で綺麗に交互になってたりとか。
そういう、もはや習慣と呼ぶしかないレベルまで染みこんだ、ふたりだけのルールみたいなものが、時折見える。