グリッタリング・グリーン
葉さんが完全に無意識なのが、かえって私には、痛くて。
けれどさっき言っていたように、今の彼女はまるでマネージャーのように、葉さんと行動を共にしているので。
そんな場面に遭遇するのを、避けることはできなかった。
「加塚さんに、ごめんて言わなきゃなあ」
モニタに集中しているとばかり思っていた葉さんが、ふいにつぶやいた。
「例のいたずらの話? 必要ないわよ、それでようやく一歩踏み出せたんでしょ、感謝されてもいいくらいだわ」
「でもその一歩を、望んでなかったから親父を殴ったわけだろ」
「望んでたから踏み出したのよ、単に自覚がなかったから、自分にびっくりしちゃってるだけでしょ」
「自覚しないままのほうがよかったってことはない?」
エマさんは読んでいたファイルを閉じると、あなたがた男ってものは、と息をつく。
「まったく変化に弱いんだから、あのね、水だって空気だって、流れてる状態のほうが、健全なのよ」
言いながら、くるんと椅子を葉さんのほうに向けて、教師みたいにファイルで指した。
「安定と停滞は違うの、ただとまってたら澱むだけ、余計なこと考えてないで、ハンティングの準備は万全なんでしょうね」
葉さんは不満げな表情を見せると、何か考えこんで。
やがて、にやりと不敵に笑んで、デスクを離れた。
「誰に言ってんの」
そのまま廊下に消えた背中にエマさんが呼びかける。
「朋枝さんにもスタジオ入ってもらって、いいわよね?」
いーよ、と奥のほうから、あっさりした返事が来た。
「エマさん、私、関係ないのに、お邪魔でしょうし」
「いいのよ、葉はギャラリーがいたほうが冴えるの」
「人前が苦手なのにですか?」
「不特定多数の見世物になるのが嫌いなだけよ、プレッシャーは、あればあるほど燃えるの、それが好きな子からなら、なおさら」
けれどさっき言っていたように、今の彼女はまるでマネージャーのように、葉さんと行動を共にしているので。
そんな場面に遭遇するのを、避けることはできなかった。
「加塚さんに、ごめんて言わなきゃなあ」
モニタに集中しているとばかり思っていた葉さんが、ふいにつぶやいた。
「例のいたずらの話? 必要ないわよ、それでようやく一歩踏み出せたんでしょ、感謝されてもいいくらいだわ」
「でもその一歩を、望んでなかったから親父を殴ったわけだろ」
「望んでたから踏み出したのよ、単に自覚がなかったから、自分にびっくりしちゃってるだけでしょ」
「自覚しないままのほうがよかったってことはない?」
エマさんは読んでいたファイルを閉じると、あなたがた男ってものは、と息をつく。
「まったく変化に弱いんだから、あのね、水だって空気だって、流れてる状態のほうが、健全なのよ」
言いながら、くるんと椅子を葉さんのほうに向けて、教師みたいにファイルで指した。
「安定と停滞は違うの、ただとまってたら澱むだけ、余計なこと考えてないで、ハンティングの準備は万全なんでしょうね」
葉さんは不満げな表情を見せると、何か考えこんで。
やがて、にやりと不敵に笑んで、デスクを離れた。
「誰に言ってんの」
そのまま廊下に消えた背中にエマさんが呼びかける。
「朋枝さんにもスタジオ入ってもらって、いいわよね?」
いーよ、と奥のほうから、あっさりした返事が来た。
「エマさん、私、関係ないのに、お邪魔でしょうし」
「いいのよ、葉はギャラリーがいたほうが冴えるの」
「人前が苦手なのにですか?」
「不特定多数の見世物になるのが嫌いなだけよ、プレッシャーは、あればあるほど燃えるの、それが好きな子からなら、なおさら」