グリッタリング・グリーン
よね? とエマさんが振り仰いだ先には、水の入ったグラスを持った葉さんが、戸口にもたれるように立っていた。

水滴の光るグラスを、ちらりと舐めて、笑う。



「うん」



笑みを残した目が、居心地が悪くなるほど、じっと私を見つめた。

見透かすような、奇妙に据わった目。


やがて葉さんは、歩いてくる、と言って、ふいっと姿を消してしまった。


知らないうちに、息を詰めていたことに気づいた。


なんだろう、今の。

葉さんじゃ、ないみたい。



「急にエンジンがかかっちゃったみたいね」



エマさんが肩をすくめた。



「どこへ行ったんでしょう…」

「熱を冷ましてるのよ、特別なヤマを前にすると、いつもああなるの、興奮しすぎて、自分を抑えられないのよ」



葉さんが?

あの、いつも温度の低い、ぼんやりした空気をまとった人が?


エマさんが、机いっぱいに広げた資料に書きこみをしながら、口の端を上げた。



「あれが葉よ」



知らなかったの? と問われてる気がした。

知らなかった、これっぽっちも。


あんな、ぎらぎらした、抜き身みたいな葉さん。

瞳が、昂りに光ってた。



あれが…葉さん。



身体の奥に、火が灯ったようになって、椅子の上で身じろぎする私を。

エマさんが、くすりと笑った。



< 145 / 227 >

この作品をシェア

pagetop